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執筆者の写真高崎さと鍼灸院

梅雨時期の不調改善


梅雨時期の鍼灸治療
梅雨時期の不調改善



目 次

  1. はじめに

  2. 「湿邪(しつじゃ)」、「水滞(すいたい)」とはなにか

  3. 「水滞」の症状

  4. 梅雨の時期の養生法

  5. 「水滞」の鍼灸治療

  6. おわりに



1.はじめに


毎年のことですがうっとうしい梅雨の季節になりました。最近は、毎日しとしととした雨が降り続くことは少なくなりましたが、じめじめとした湿気は体にこたえます。湿気と寒暖差の大きいこの季節は、体に不調を起こしやすくなります。


この季節は、「梅雨冷え」という言葉があるように、暑かったと思ったら急に気温が下がり、体が冷えることがあります。体の冷えは、血液の流れを悪くするので、頭痛や肩こりの症状を起こす原因にもなります。また、梅雨の時期には飲んだ水分が汗となって蒸発しにくくなり体に水がたまりがちになるため、むくんだり冷えたりしやすくなります。さらに、梅雨の季節は高気圧と低気圧が交互に入れ替わることが多く、気圧の変化によって自律神経のバランスが崩れやすくなります。この自律神経の乱れによっても、体は大きな影響を受けます。


「身体が重い」、「頭が痛んだり重くなる」、「めまいや立ちくらみがする」などの症状があったり、ふだんから車酔いしやすかったり、胃がむかむかする、低気圧が近づくと具合が悪くなるなどの症状のある方は、この季節は特に要注意です。体が東洋医学でいうところの「湿邪(じつじゃ)」におかされ、体が「水滞(すいたい)」の状態にあるのかもしれません。


聞き慣れない言葉だとは思いますが、ここでは、梅雨時に起こりやすい体の不調を東洋医学を中心に説明したいと思います。



2.「湿邪」、「水滞」とはなにか


先ほどは、「湿邪」や「水滞」をいう言葉を使いました。これら「湿邪」や「水滞」とはなにかを説明する前に、まずは梅雨の時期の特徴について、東洋医学に基づいて説明したいと思います。

前提としてですが、東洋医学では、人は季節により、風、寒、暑、湿、燥、火の六つの気候の変化(六気)を受けると考えています。この六気が、身体の適応力を超えるほど激しく変化して体調の不調を引き起こした場合、それぞれを、風邪(ふうじゃ)、寒邪(かんじゃ)、暑邪(しょじゃ)、湿邪(しつじゃ)、燥邪(そうじゃ)、火邪(かじゃ)と呼び、合わせて六淫の邪気(ろくいんのじゃき)といいます。


このうち、梅雨の時期に気を付けなくてはならないのが「湿邪(しつじゃ)」です。

梅雨のように雨が続くと、湿気の多い状態がつづき、なおかつ雨に濡れるようになります。そうすると外界に在った湿の気が「湿邪(外湿=がいしつ)」となって、体にいろいろな症状を引き起こします。

また、梅雨の時期は「梅雨寒」や「梅雨冷」といって、急に寒くなることがあったり、雨に当たったままエアコンの風に当たることもあったりと、「湿邪」だけでなく「湿邪」と「寒邪」が同時に入ることもあります。

 

こうした外からの湿邪の他に、ふだんからの暴飲暴食をしたり、冷たいものを好んでいたりすると、消化吸収作用(東洋医学では「脾(ひ)の運化作用」といいます)が衰え、水分代謝の異常がおこりやすくなります。

こうした「脾」の働きが低下し、水液を運化できない状態を「内湿(ないしつ)」といい、すでに内湿があるところに、この季節特有の湿邪が外から入ることによって体内の「水(すい)」-東洋医学では身体の中を流れる血液以外の正常でない水液のことを「水」といいます-が停滞、偏在し、さまざま症状を引き起こしたものが「水滞(すいたい)」、あるいは「水毒(すいどく)」です。

 


3.「水滞」の症状

 

「水」の巡りが身体全体で滞り、「湿」が停滞、偏在すると、頭痛や頭重感、めまい、疲労感を感じるなどの症状がみられるようになります。また、頻尿や膀胱炎、手足の冷え、むくみや重だるさなどがみられることもあります。

 

とくに胃腸などの消化器、東洋医学でいう「脾(ひ)」はもっとも「湿邪」におかされやすく、ここに「水」が滞った場合には、胃もたれや食欲不振、吐き気、下痢などの消化器症状がみられます。全身が疲れやすくなったり下半身が特にだるくなったりするのも、消化の力が弱まって、全身に栄養が行き渡らなくなったり、水液の運搬がうまくいかなくなくことと関係します。

 

また、「水」が胸のあたりで滞っている場合は、サラサラとした鼻水や痰、咳、喘鳴、悪心などがみられやくなり、関節に「水」が滞った場合は、関節の痛みや関節炎を起こします。

 

さらに、「脾」には、「統血」作用といって、血液が体内を正しく循環するよう制御する作用があるため、碑の統血作用が障害されると、血尿、血便、崩漏、子宮出血、月経過多などがおこります。



4.梅雨の時期の養生法


このように水滞はさまざまな不調をひきおこしやすいので、「水滞」の傾向がある場合は少しでも「水」が滞らないよう、その巡りをよくする必要があります。


そのためには、まずは適度に体を動かすことが大事です。筋肉、とくに下半身の筋肉が少ないと、筋肉がポンプのように働いて体内で水分や血流を循環させる力が落ちてしまうため「水滞」の原因になります。気血を巡らせるためにも、できる範囲でよいので体を動かし発汗を促してください。また、発汗を促すにはお風呂につかって身体を温めることも効果的です。


次に、「湿邪」の影響を受けやすい「脾」を守るために、食生活をきちんとしましょう。蒸し暑い季節なので、エアコンをかけながら冷たい飲食物を口にすることも多いと思いますが、冷えがあると胃腸の働きが低下して「脾」に「水」が滞ってしまいます。水分を適切に摂りながらも、過剰に冷たいものを摂取しないようにしてください。また、お酒を飲みすぎると身体に余計な水分ため込むため、代謝や血行が悪くなって内臓の機能が低下し、余分な水分の排出ができず「水」の偏在をまねきます。お酒はできるだけ控えめにしてください。当然ですが、暴飲暴食は「脾」と傷つけるためやめましょう。


夏野菜のキュウリやナス、トマトなどは身体を冷やすので、なるべく生ではなく、茹でたり炒めたりして、加熱調理をすることがおすすめです。また、ショウガやネギ、シソなど体を温める香味食材を意識的に食事に取り入れたり、身体の余分な水分を取り除くトウガン、緑豆、アスパラガスなどの利水作用のある食材を使うことも大切です。



5.「水滞」の鍼灸治療


梅雨の時期に雨にあたってそのままにしていたり、エアコンにより体が冷えすぎた場合、「外湿」におかされます。そこに、もともと暴飲暴食や冷たいものの食べ過ぎによる「内湿」があったときには「水滞」を起こし、頭重感、身体が重い、食欲減退、悪心嘔吐、慢性胃炎、腸炎、慢性下痢、内臓下垂、月経不順、腸鳴、倦怠感など、様々な症状を引き起こします。

 

中医学では、このような状態を「寒湿と湿邪による碑の運化作用の失調」とか、「寒湿困脾(かんしつこんひ)」と表現します。

「寒湿困脾」の治療は、寒を温めて湿を取り除き、胃腸機能を強化することが目標となります。代表的な穴(ツボ)は次のようなものです。中医学では、穴の特性を穴性といい、四字熟語で表現します。いくつかを簡単にまとめておきます。


  • 中脘(ちゅうかん)…調理中焦、健脾化湿、和胃降逆 和胃利湿 胃の働きを調整する代表点。胃の募穴。

  • 足三里(あしのさんり)健脾和胃、扶正培元、疎風化湿、通経活絡 胃痛、消化不良、下痢、めまい、むくみ、疲労など応用範囲の広い穴

  • 三陰交(さんいんこう)…補脾胃、助運化、通経活絡、調和気血 消化器症状の他、生理痛や月経不順などの瘀血症にも用いられる。女性の特効穴。

  • 内関(ないかん)…寧心安神、鎮痛止痛、理気和胃 気滞を取り除きながら、胃の働きを調整する。鬱、乗り物酔いなどに使われる。

  • 公孫(こうそん)…理脾和胃、調衝脈 消化不良、腹脹、下痢など水湿の運化失調に用いられる。不眠、心煩にも有効。


実際には、これらの穴の組み合わせを基本に、それぞれの方の症状に応じた穴をセレクトして、必要な手技を加えながら治療を行ないます。



6.おわりに

 

今回の記事では、梅雨の時期に起こりやすい不調を取り上げ、東洋医学の観点から説明してみました。「脾」とか「水」とか「水滞」とか聞き慣れない言葉も多く、また、東洋医学の身体観は西洋医学とは大きく違うため、もしかしたらわかりづらかったかもしれません。


東洋医学では、人体を、内蔵、血管、神経のような実体を持ったパーツの集まりとは考えません。東洋医学でいう「脾」をはじめとする五臓六腑は、それぞれ独立したパーツではなく、互いに関係しながら「経絡」を介して全体として生体を形づくっている、実体というよりむしろ機能といったほうがよい存在です。そして、それぞれの臓腑は相互に関係してるため、一つの臓器の発病は必ず全体に波及します。


したがって、「頭が痛んだり重くなる」、「めまいや立ちくらみがする」などの症状があった場合、その症状だけ、その発症部位だけ気を取られてはだめで、大切なのはそのおおもとにある原因を、経絡や臓腑、気血水(津液)の全体を探って治療方針を立てることにあります。


鍼灸治療に興味がある人で、「頭が痛ければ鎮痛剤を飲めばよい」といい人はあまりいないと思いますが、同じ頭痛であっても、先ほど述べたような体内に「湿」が停滞して重苦しい感じをともなう頭痛と、「瘀血」により血の巡りが悪くなって脳に必要な血が運べずに生じる頭痛や、ストレスによって「気」の巡りが悪くなることで脳の栄養状態が悪くなって起こる頭痛とでは、それぞれ原因が異なるため治療の方法も大きく異なります。その見きわめが大切です。


梅雨の時期に、「頭が痛んだり重くなる」と聞けば、鍼灸家であればまずは湿邪による水滞を疑います。そして問診で、そのほかにも、めまいや立ちくらみがする、胃がむかむかする、下痢しやすい、生理不順があるなどの症状があれば、ほぼ湿邪による水滞と見立てて治療することで鍼灸により症状の改善を図ります。


「天気痛」や「自律神経失調症」など、原因不明の不調には様々な名称がありますが、これらもその根本には経絡や臓腑、気血水(津液)の不調和があります。今回は、「水滞による脾の不調和」によっておこる様々な症状を取り上げましたが、頭痛やめまい、生理不順や関節痛など、一見異なる原因で生じているように見える病気も、その根本の原因さえ見間違えなければ、鍼灸治療では一度に治療することが可能となります。そこが西洋医学にない鍼灸治療の利点であり、面白いところだと感じています。


もし記事をご覧になって、「私の症状に当てはまっているかも」と感じられる方がおられれば、一度ご来院いただき相談をしていただければと思います。

ご一読ありがとうございました。






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