目次
1.初めに
2.心身症としての顎関節症
3.顎関節症のセルフケア
5.顎関節症の鍼灸治療
6.終わりに
1.はじめに
最近、顎関節症の人がふえています。
顎関節症とは、「口を大きく開け閉めしたときに痛みがある」、「口を開けた時に耳の前でガクッ、ゴリなどと音がする」、「口を大きく開けられない」などの症状が出る、あごの関節や、それを動かしている筋肉に痛みや動きの制限が生じる病気です。
顎関節症の原因としては、片方の歯だけで噛む、歯ぎしりをする、何かに熱中したり緊張して強く奥歯をくいしばる、猫背等様々な原因があげられていますが、多くのケースではストレスが関係していると考えられています。そういって意味で、顎関節症はストレスによって症状が悪化する「心身症」の一種、ということができます。
顎関節症の症状と覚えておきたいのは、あご周辺の症状だけではなく、肩や首の凝り、めまい、耳鳴り、頭痛、吐き気を起こしたり、さらに進行すると、不眠や抑うつ症状、内臓の機能低下などの全身症状を引き起こすことです。
顎関節症に関心を持たれる方は少ないですが、放っておいてよい病気ではありません。
2.心身症としての顎関節症
顎関節症の人が増えているのは、生活実感としても感じるように、日本社会全体に余裕がなくなって、ストレスを強いられている人が増加しているからだと思われます。
精神的に余裕がない社会で暮らしていると、ストレスに長時間さらされることで感情が鈍くなることによる抑うつ状態や、自律神経失調症などに伴う頭痛や肩こり、めまいなど、さまざまな影響が心身に表れます。
顎関節症の原因はさまざまに言われますが、顎関節症を心身症の観点から見ると、ストレスにより筋肉に連続した緊張が続くことにより気血の巡りに障害をきたし、筋肉の痛み、硬結、痙攣などが生じた病気であるということができるでしょう。
解剖学的に見ると、顎関節は、頭蓋骨に顎の骨(下顎骨)が多くの筋肉や靭帯に支えられてぶら下がっている不安定な構造をしています。そのため、ストレスにより気血の巡りが悪くなると、いち早くあごが影響を受け、あごを動かし物を噛むときに使う筋肉(咀嚼筋)に痛みや硬結、痙攣が生じ、結果として顎関節症となります。
また、よく「歯を食いしばって頑張る」といいますが、ストレスに対抗して頑張っていると咀嚼筋に無意識に力が入り、さらに顎関節症が悪化します。
3.顎関節症のセルフケア
顎関節症のセルフケアとしては、第一に、日中に無意識に行なわれる上の歯と下の歯の接触させる習慣に気づき、それをやめることです。わたしたちは普段、意識していないときには上の歯と下の歯の間には隙間があり、接触していないことが普通です。ところが、顎関節症の人は、はるかに長い時間上下の歯が接触させる癖をもっていることがわかっています。ですが、無意識に行っている行為なので本人はそのことを自覚していません。
無意識に歯と歯を接触させる癖を持っていいるかどうかは、目を閉じて力を抜いて唇を軽く閉じた時に、上の歯と下の歯が接触しているかを調べることでチェックできます。このやり方で上下の歯が接触している場合、普段から上下の歯を接触させている習慣がある可能性が高いです。
このやり方で歯を接触させる癖があることに気づいたら、日常生活の中で、そのことを意識して、あえてぼーっと口を空ける時間を取る習慣をつくったり、軽く口を閉じたとしても上下の歯が当たらないようなポジションを確認する習慣をつくるようにします。最初は難しいですが、しばらくそれを実践すれば、歯と歯を接触させない新たな癖を身に着けることができ、顎関節症は自然とよくなります。
もう一つは、こめかみや頬に指の腹をあてて、軽くマッサージをすることです。適切な場所を自分でうまく探り当てることは難しいですが、押して痛気持ちのいいところを、力をあまり入れずにくるくるとなでるつもりで筋肉をほぐしてください。日に数回、仕事や勉強などの合い間に、歯と歯の接触確認と一緒に行うといいと思います。
4.マインドフルネスや自己催眠で緊張をとる
先ほども述べたように、顎関節症はストレスと深く関係する心身症の一種です。セルフケアや鍼灸治療で症状が改善しても、根本のストレスに対処できないと再発を繰り返します。
ストレスに対処する方法としてよく知られているものに、マインドフルネスや自己催眠があります。このふたつはストレスについての考え方が違うので、簡単にまとめておきます。
マインドフルネスでは、ストレスは自分以外のことに気を取られることから生まれると考えます。
私たちは毎日の生活で、常に気を散らして生活しています。例えば仕事をしていても、「今日の昼食は何と食べようか」、「隣の人がうるさいな」、「あの音、なんだろう」とか、いろいろな想念が次々と浮かんで消え、消えては浮かんできます。そう考えると、私たちの心は常にまわりに振り回され、一か所にとどまっていないことが分かります。そのことで気疲れが起こり、それがストレスとなって心身に緊張感が生み出されているのです。したがって、マインドフルネスでは、様々な瞑想のテクニックを使って、生活の中で気が散らない状態をつくることが目的となります。究極的には、「不動心」という何事にも動じない心の状態ができれば理想です。
これに対し自己催眠では、意識と無意識の乖離や対立からストレスが生まれると考えます。
私たちの心の中には、自分の意思ではコントロールができず、自分では意識できない自分の中の「かくれた自分」がいます。このかくれた自分のことを「無意識」といい、無意識の領域には、自覚されていない過去の経験やさまざまな欲求などが無秩序に存在しています。そして、ストレスのもとになる漠然とした不安感や、私たちの行動を邪魔する気分のムラなどは、すべてこの無意識から生まれてきます。
無意識は、ふだんは知ることもコントロールすることもできない混とん状態にありますが、自己催眠で催眠状態になると、意識は無意識の内容を知ることができるとともに、無意識に働きかけてコントロールすることができるようになります。自己催眠では、このように混とん状態にある無意志と意識との方向性を同じくして、ストレスを減じること目的となります。また、自己催眠状態になると、「頭痛がよくなる」、「よく眠れる」、「いつも落ち着いていられる」などの暗示を使って、直接に不快な症状をとることも可能になります。
5.顎関節症の鍼灸治療
少し専門的ですが、顎関節症の鍼灸治療について説明します。
顎関節症の鍼灸治療では、咀嚼に関係する筋肉、つまり咬筋、側頭筋、顎舌骨筋、翼突筋などを触診し、圧痛点や硬結点に刺鍼します。そのための顎関節の近位の経穴としては、聴会、下関、頬車、頭維、完骨、翳風などが治療点となります。そして、経絡の流れを考慮して遠位の経穴として、胃経の足三里や陥谷などを刺鍼します。
また、ストレスによる精神状態を改善するために、百会、四神総穴、新門なども用いるとともに、顎関節症の方のほとんどに肩こりや項背部の凝りがあるので、風池、肩井、天宗、膏肓などにも刺鍼して体の緊張をほぐします。
また、頸部には血管や神経が集まっているため、鍼灸治療にはあまり向かない部位もあります。その場合、マッサージを併用することで鍼灸治療の効果を高めることもあります。
6.終わりに
顎関節症は、様々な症状を引き起こす厄介な病ですが、じつはあまり関心を持たれない病気でもあります。一説には、全人口の7~8割の人があごに何らかの症状を持っているにもかかわらず、このうち病院で治療を受けているのは7~8%だといわれています。当院を訪れる方でも、顎の症状を訴えて来院された方はほとんどおらず、問診でこちらからたずねて初めて、「じつは歯科でマウスピースをつくってもらっています」等のお話が出ることがほとんどです。
しかし、顎関節症は、口が空けにくくなるなどのあご周辺にだけ影響を与える病気ではなく、肩こりは項背痛、またはそこからの腰痛など全身に影響を病気であり、さらには抑うつ状態をつくるなど、心身に影響を与えるこわい病気です。
この記事をご覧になり、顎関節症に関心を持っていただき、早期に治療を受けていただければ幸いです。一回の治療でも、顎が軽くなることが実感していただけるかと思います。
さいごまでお読みいただき、ありがとうございました。
顎関節症などでお悩みの方はぜひ一度当院へご相談ください。
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